2011年02月11日

永別

永別


 彼が死んだ、と、留守番電話メッセージにふきこまれていた。
 大学の、サークルの同期だ。
 最初は仲良くしていたが、イズムの差異か、或いは互いの幼稚さ故に反発し、
 かなりやりあう状態だった。追い出しコンパでも、直接会話はしないようなくらいだったと思う。
 硬い文体で、ハードな物語を書く男だった。本人の読書傾向も、恐らくは本人も、そういったハードなところを求めていたように思う。学生時代、大沢在昌を好んでいたのを思い出す。
 私は向上を望んだ。あくまでも自らの物語を伸ばすことを望んだ。
 彼はサークルを望んでいた、と、思い出して推測する。サークルに集う人を束ね、仲良く過ごす。物語を作って冊子にし、合同批評会を行う、というサークルの行動指針は、第一義ではなかったのかもしれない。もちろんサークルの存在意義はそこにあったのだが、それ以前に、気持ちよく物語を紡ぎ、発表する場を持ちたかったのだろう。
 私にはその空気が、いたたまれなかった。ぬるま湯、と、表現されることの多い空気。そのように感じられていた。致命的なミスのある物語ですらも指摘されず、指摘されても「ああ、ごめんごめん」で終わってしまうような批評。そんな合同批評会は意味がない。その後の向上に何の役に立つのだろうか。そんな風に思っていた。
 連絡してくれた、先輩が言った。昨年の大学祭で会ったばかりだったと。「本を出したから感想を聞かせてくれ」と、本を渡されたようだ。自費出版、地方の出版社にお願いしたようなものだろうと言っていたが、正直、聞いて苦しくなった。
 同人だろうが何だろうが、本にまとめるほどの、自ら出版したくなるほどの物語を彼は創ったのだ。比して私はどうだ。
 物語という物語は、
 言葉を飾っても仕方ない。
 小説を書いていない。着想もほとんどない。
 そこに向かうエネルギーは、多分写真に向かっている。それはそうだろう。表現はしているが、それは言葉を用いてはいない。写真を撮る度、プリントを見る度、発表の場に作品として提出する度、自分はいかに言葉なんだろうと、言葉に依拠しているんだろうと思うのに。言語での表現をしていない。
 小説を書きたいという気持ちはある。が、それは言い訳だ。
 本にまとめるという行動に出た彼が、
 本にまとめるまでに小説を書き続けていた彼が、うらやましくなった。
 嫉妬だ。

 書きたくなったな。
 彼へのオマージュかもしれない。
 ブランクと言ったらかっこつけになる。無様なものになるんだろうけれど。
 小説、って体裁のものを、何か一つ、今、新しくつくりたいな。


 当時は多分、ちっとも感じてなかっただろうけどさ。
 こう、話聞いて、思い出してるとさ、なんか違うんだよ。あの頃とは。
 全否定もしたし、ひどい口論にもなったけどさ。
 おまえの小説、好きだったんだよ。
 あれだけの長編を均質に保てるの、嫉妬してたんだよ。
 留守番メッセージ何度も聞いてさ、
 先輩に電話してさ、話聞いてさ、
 その後も先輩が、メールで状況を教えてくれたけどさ、
 まだわかんないんだよ。
 わかんないとしか言いようがないんだよ。
 でもとにかくさ、こう言わなきゃならないんだよな。



 さようなら、羅侯。

 敢えて、学生時代を知る人が見ないこの場に記す。


Posted by ギマ at 00:27│Comments(2)
この記事へのコメント
もう、この文章が僕にしたら
「小説」になって・・・
泣きそうになってしまいました。
Posted by まっちゃん! at 2011年02月13日 01:29
まっちゃん!さん

コメントありがとうございます。
小説と言っていただいてありがとうございます。
そういう書き方になる、という癖かもしれないですね。
Posted by ギマギマ at 2011年02月13日 14:25
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    コメント(2)